WFTOサミットレポート第3弾
「生活賃金とは?」+番外編

WFTOサミットレポート第3弾<BR>「生活賃金とは?」+番外編


日本フェアトレード・フォーラム代表理事の胤森です。
2016年10月19日~21日にタイで行われた「アジア・フェアトレード・サミット」。レポート第3弾、最終回は、会議の大きなテーマである「生活賃金」のセッションを報告します。

WFTO(世界フェアトレード機関)の10指針にある「公正な対価の支払い」。「公正な対価」をどうやって証明するかの物差しとなるのが「生活賃金」です。

フェアトレードでは、商品の生産の現場で誰がどんな環境で仕事をしているかについて、売り手(生産者団体)と買い手(バイヤー団体)が情報を共有して透明性を保ちます。その際、生産に携わる人びとが仕事に対していくら賃金を受け取っているかという情報も公開されますが、その賃金が果たして「公正」といえるのか?という判断は簡単ではありません。

ひとつの指標としてその地域の法定最低賃金を参考にしますが、法定最低賃金が必ずしも、働く人とその家族が一日2~3回食事をとり、子どもが学校に通い、病気になったら治療を受けられるだけの生活水準を満たしているとは限りません。例えば衣料品産業が盛んなバングラデシュでは、縫製工場の労働者たちがしばしばストライキを行い、最低限の暮らしを保証できるレベルに法定賃金を引き上げるよう要求しています。物価の上昇や社会情勢の変化に法律が追い付いていないのです。

WFTOでは、公正な対価の判断にあたって、働く人とその家族が必要なニーズを満たすのに十分な賃金である「生活賃金」を指標とするよう、ワーキンググループを作って検討中です。WFTOのメンバー団体が共通で使える、できるだけシンプルな計算方法を決め、2017年の総会で公式ポリシーとして採択できるよう準備を進めています。

とはいえ、フェアトレードの生産者団体は、例えば障がいを持つ人などそもそも仕事の機会がなかった人が働き手の場合も多く、いきなり生活賃金の基準をクリアできないことも考えられます。

WFTOでは、基準を当てはめて単純に合否の判定をするのではなく、対話と交渉を通じて賃金が決められているか、常に改善が目指されているか、なども評価の対象とします。バイヤーと生産者、雇用主と働く人の対等な立場を目指すWFTOならではのアプローチですね。

レイン・モーガンさん

レイン・モーガンさん

南アフリカの生産者団体「タークル・トレーディング」を率いるレイン・モーガンさんから、「生活賃金とは何か?」のプレゼンテーション

 

1478065840426

「生活賃金とは、単に金額ではなく、人間の尊厳を意味する」
「生活賃金とは、フェアトレードや途上国の問題にとどまらず、全世界の基本的人権の問題である」
……日本でもブラック企業や相対的貧困の問題がクローズアップされている昨今、生活賃金の問題はグローバルな課題といえます。

 

サミットでは同時進行で他にも「男女平等」や「ブランドの価値」などさまざまなテーマで分科会が行われており、とても中身の濃いサミットでした。内容もさることながら、こうして年1回フェアトレードの理念を共有する仲間が一堂に会して同じ時間を共有するだけでも、自分たちの活動を振り返るきっかけや活動を続けるエネルギーを得ることができます。

 

最後に番外編として、会議の期間中、ホテルの中庭で行われた草木染めのワークショップの報告を。

このワークショップは、バングラデシュとタイの生産者団体のエキスパートが講師となって、実際に商品の生産で使われている材料を使って染色を体験するもの。伝統技術が持つ素材の多様性や手仕事のすばらしさを、WFTOに加盟する買い手側もつくり手側も、改めてメンバー全員で共有しようと企画されました。忙しい会議のスケジュールの合間を縫っての自由参加ですが、事前に会議の事務局から「草木染めワークショップ用に布や紙など染めたいものを3点持参してください」とリマインドのメールがたびたび送られてくるほど、サミットの重要なコンテンツに位置付けられていました。

1482306394608

参加者は、古いTシャツや手ぬぐいなど思い思いの素材を持ち寄って中庭に集合。大きな鍋で煮出した染料に、染めるものを浸します。

 

1482306418673

タマネギの皮は、あらかじめ煮出して冷ましたものに布を浸け込みます。黄金のようなきれいな黄色に染まります。

 

1482306088476

マンゴーの樹皮は、渋めの浅黄色に.

 

1482306347951

草木染めの色見本。植物や鉱物といった自然の原料だけで、これだけ豊かな色彩を実現できるのは驚き。

 

1482305996378

美しいえんじ色は、ラック虫(カイガラムシの一種)の分泌物で染色します。

 

1482306368293

絞り染めなど、技法を凝らした作品も.

 

体験してみて、改めて自然素材で豊かな色合いを実現する伝統技術のすばらしさに感激しました。伝統技術や手仕事を活かした製品をフェアトレードで取引することが、技術を継承し、つくり手の尊厳を守ることにつながるのだということを再認識したワークショップでした。

 

1482306436046

 

会議最終日の夕方、ホテルが面するタ・チン川に沈む美しい夕日を堪能。
二泊三日の慌ただしい日程の中で、心和むひとときでした。