現役大学生、欧州から日本のフェアトレードを考えるvol.9
「フェアトレードだけどフェアトレードじゃない!? Fairly Traded Teaの出現で荒れる英国フェアトレード市場」

現役大学生、欧州から日本のフェアトレードを考えるvol.9<BR>「フェアトレードだけどフェアトレードじゃない!? Fairly Traded Teaの出現で荒れる英国フェアトレード市場」


みなさんこんにちは、猛暑が続いていると聞きますが、いかがお過ごしでしょうか。ロンドンは東京に比べると湿度がそこまで高くないので、まだまだ過ごしやすい気候が続いています。

さて、6月にはイギリスのフェアトレード市場の大きな転換点をみることができました。そのきっかけはSainsbury’sというロンドンのスーパーマーケット。価格帯はやや高めで、エシカル専門ではないものの、プライベートブランドでもフェアトレード製品や環境にやさしい製品を積極的に販売し、社会的に良い企業活動をしている印象が強い小売店です。

スーパーマーケット sainsbury's

大きな話題となっているのは、このSainsbury’s が7月から自社商品のフェアトレード認証を受けたお茶からフェアトレード認証を取り下げ、独自に開発したスキーム(目的を達成する仕組みを持った計画)を用いた「Fairly traded tea」という新製品を販売することを発表したことです。

Fairly Traded Tea

これまで私は、イギリスやヨーロッパのスーパーマーケットでは日常的にフェアトレード製品を買うことができる環境があるとご紹介してきたと思いますが、この状況が少し変わってしまうのではないかと社会を騒がせています。

参考)INDEPENDENT紙の記事(英語)

これについてSainsbury’sからの発表によると、今後はフェアトレード認証の代わりとなるスキームを採用するようで、途上国生産者との公正な価格(またはそれ以上)での取引と、プレミアムの支払いは続けていくと 述べています。

従来のフェアトレードの場合、プレミアムは生産者である農業団体に寄付された後、生産環境を向上するために、生産者団体内で民主主義的にその使用方法が決められます。Sainsbury’sのオリジナルスキームの場合、このプレミアムはSainsbury’s基金というところに集められ、農家とともに生産環境を向上するためのアクションプランを練っていく方法を取るそうです。

ほとんど同じルールを適用するのであれば、なぜわざわざ製品からフェアトレードラベルを取り除き自社のスキームでやっていくのでしょうか?

その理由に、フェアトレード認証を取得するために、フェアトレードラベルの認証団体にライセンス契約料を支払わなければならないことが考えられます。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、例えば「国際フェアトレード認証」では、フェアトレード認証ロゴを製品パッケージに表示させるためにはフェアトレードラベル団体とのライセンス契約をする必要があり、日本でも企業規模により商品ごとに5万円から20万円の費用+αの費用がかかります。(世界フェアトレード機関によるWFTOフェアトレード保証制度認証は、団体に与えられる認証なので、商品ごとのライセンス料は発生しません。種類によって、仕組みが違うのですね)

マックスハベラー フェアトレード認証ライセンス
Sainsbury’sのように大きなスーパーマーケットの場合、このライセンス料が大きな金額になってくるはずなので、それを考えての決断だったのではないかと思います。(他にも自社で一貫してやる方が色々と都合がいいと考えられますね)

さて、みなさんはこのSainsbury’sの決断に対してどう思いますか?

賛否両論あるかと思いますが、私個人の意見では反対です。
なぜなら、フェアトレードとはただ公正な取引をして労働に見合った賃金を支払うことだけではなく、 生産者の労働環境にも気を配り、透明性を確保し、同時に彼らの生活を向上していく仕組みだからです。そして、第三者からの監視が、妥協のない取り組みを実現するのに重要な役割を果たしているだろうと私は思っています。

仕事柄、たくさんのニュース記事を読むのですが、このことは特に大きく取り上げられており、Sainsbury’sのように国際フェアトレード認証ラベルを取り除こうとする小売店が次々と出てくるのではないか。フェアトレードが前提である時代の終焉なのではないか。などさまざまな議論がされています。

もちろんフェアトレードファンデーションはこれに反対しており、Sainsbury’sにFairly Traded Tea を販売させないようにカウンタープロモーションをしているのですが、Sainsbury’sもこれに対し署名を集め、一定の支持があることをアピールしています。

そして肝心の生産者もFairly Traded Teaに難色を示しており、販売先である先進国の事情でいろいろと振り回されているようです。

いずれにせよこの出来事から考えられることは、イギリスのフェアトレード市場は、次のステージに進もうとしていることがうかがえますね。この先どうなるかもう少し見守っていこうと思います。

*  *  *

そして、私個人の活動としては、フェアトレード専門店にインタビューを任せていただくことになり、今回はAnna Loucah Fine Jewelleryというブランドのジュエリーデザイナーの方にいろいろなお話を聞いてきました。

工房はロンドン中心部に位置するMake Spaceという場所にありました。さまざまな職人が集まるシェアオフィスのような工房の一角で活動をしており、とても素敵な笑顔で出迎えてくれました。

Make Space

本当に小さな工房で、必要なものしか置かれておらず、入り口には国際フェアトレード認証の盾とソファ、奥に行くとテーブルがあり、その上に工具があちらこちらに散らばっていました。
クーラーがなく、小さな扇風機一台で暑い夏をしのいでいるようで、額に汗をかきながらトンカチを叩くさまは、どこか日本の職人さんと重なるところがあります。

Anna Loucah1

Anna Loucah4

Anna Loucah3

Anna Loucah2
特別に加工前のフェアトレードゴールドを見せていただきました。加工前の金
それがAnnaによって加工され、装飾品と姿を変えます。
加工後の金

インタビュー動画も合わせてご覧ください。日本語だと以下のようになります。

  私:    フェアトレードジュエリーを販売した理由はなんですか?

  Anna:    国際フェアトレードラベルがイギリスで消費者に信頼された認証ラベルだというのは知ってたし、それが金の採掘をエシカルにするのための最善の方法だと思ったからね。

  私:    なぜフェアトレードゴールドが重要だと思いますか?

  Anna:    フェアトレードゴールドを買うことは前向きで誠実なストーリーにつながるの。透明性が採掘シーンから指輪として使われるまで確立されているでしょ。だから結婚式という重要なシーンでも生産者に対して少しの愛とケアをシェアすることができるの。これは素晴らしいことよ。

実はフェアトレード総売上1位を誇るイギリスでも、フェアトレードゴールドの認知度は国民の10%にすぎません。日本とはベースが大きく違うものの、一製品の認知度を向上するといった点では学ぶべきことがたくさんあると思うのでこれからも注目したいと思います。

このAnna Loucahは通常はインターネット販売のみ取り扱っているそうです。結婚指輪フェアトレードゴールドを購入する人も少なくないそうです。興味のある方は、ぜひホームページもご覧ください!
http://www.annaloucah.com/

そしてもうひとつ、イギリスには6月の第1週にボランティアウィークというものがあります。この日は、ボランティアに感謝をするために設けられたようで、イギリスでは少しずつ広まっているそうです。フェアトレードファンデーションではボランティアが専門分野について他部署のマネージャーと深い話や質問ができる機会が設けられたり、普段顔を合わせることのないボランティア同士が交流できるパーティを開催してくれたりしました。

思い返しても、紹介できるような面白い話はありませんでしたが、主に日本とイギリスのフェアトレード市場を比較したり、自分が思い描く日本のフェアトレード市場を実現するためのアドバイスをいただきました。また、私は将来フェアトレード製品を専門に扱うビジネスで起業したいと考えているのですが、それに合う生産者団体の紹介もしていただくことができました。

フェアトレードファンデーションのブログ(英語)ではボランティア活動についてコメントさせてもらっているので、興味のある方はこちらから楽しんでいただけたらと思います。
http://www.fairtrade.org.uk/Media-Centre/Blog/2017/June/Speed-Networking-with-Fairtrade-Volunteers

さて、私のフェアトレード留学も残すところ1か月となりました。
この1年間で出国時に私が持っていたビジョンをかたちにする具体的なアイデアを確立することができました。現在はそれに向けてさまざまな活動をしており、次回の記事でもみなさまにご紹介したいと思っています。

長文となってしまいましたが、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。また次回の記事をお楽しみに!

桑原


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