フェアトレードのおしごと ~その5 経理・財務編~

フェアトレードのおしごと ~その5 経理・財務編~


ピープル・ツリーのスタッフの普段の仕事を通じて、
フェアトレードをご紹介する「フェアトレードのおしごと」の連載も、今回が最終回です。
今回は「経理・財務」のお仕事のご紹介です。

一般的な会社にとって、またフェアトレードの事業を行う上でも重要となる
お金の流れについて、「経理」と「財務」の担当にお話を聞きました。

「経理」「財務」とはどんな仕事?

まず「財務」は、事業を行う上で必須となる資金調達を行い、その資金の使い途、
販売の戦略を立てるなど、会社全体を見渡したプランを立てる業務を行っています。

「イギリスの投資顧問会社に勤めていましたが、転勤にともない1989年に日本に来ました。
妻のサフィアがピープル・ツリーの前身であるNGO『グローバル・ヴィレッジ』を設立してしばらくは、
仕事をやりながらサポートしていましたが、2007年からピープル・ツリーにフルタイムで
関わるようになりました。サフィアから関わってほしいと言われていたこともありましたが、
フェアトレードの事業に意味があると感じたのがきっかけです」(ジェームス)

 

ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーの夫でもあり仕事上でのパートナーでもあるジェームス。 活動を始めてまだ間もない頃は、フルタイムで働いていた投資顧問会社からの給与を フェアトレードの事業資金にするなど(!)、あらゆる面でピープル・ツリーの活動をサポート

ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーの夫でもあり仕事上でのパートナーでもあるジェームス。
活動を始めてまだ間もない頃は、フルタイムで働いていた投資顧問会社からの給与を
フェアトレードの事業資金にするなど(!)、あらゆる面でピープル・ツリーの活動をサポート

 

「経理」は、会社が持つ現金や預金の管理、外部への請求書の支払い、資金繰り、借入金の管理、
監査法人や税務署に提出する書類のファイリングなど、
日々の業務のほかに、月次、年次(つまり決算)の報告などを行います。

「以前も経理の仕事をしていました。入社したのは1999年で
当時は14人くらいのスタッフ数でした。前の会社も小さいところだったので、
一人で業務を行うことにそんなに大変さを感じませんでしたが、
生産者へ発注してから商品を販売し、売上を回収するまでのスパンが長いことには、
最初おどろきました」(キョウコ)

コットンの種まきから計画を練ります

商品の企画から販売までの時間が長いことは、今までも度々お伝えしてきました。
今まではデザインしてから、の話でしたが、今回はさらにさかのぼり、
「原料となるコットンの種を植えてから」というとても息の長いお話です。

オーガニックコットンの製品に使われる原綿は、コットンの種まきの段階から、
現地の農家組が話し合い、今後のピープル・ツリーの発注量に応じて、
各農家への仕事の割り振りなども決めています。
現在販売している2015春夏コレクションに使われているコットンは、
2013年の11月から2014年3月ごろまでにインドの農地で収穫されたものです。
コットンを栽培している農家は、コットン以外の野菜なども栽培しているため
収穫のタイミングも考えて栽培の計画を練る必要があるのです。

実は以前、この農家組合に別のメーカーからコットン取引の引き合いがあったのですが、
「持続可能な生産をするには、ピープル・ツリーのように、種まきの段階から計画が必要」と断り
ピープル・ツリーからの発注分を優先したそうです。
コットン農家とピープル・ツリーとの信頼関係はそれだけ親密ということですね。

 

収穫されたコットンの実から種を取り除いてまとめたものを『原綿』と呼びます

収穫されたコットンの実から種を取り除いてまとめたものを『原綿』と呼びます

 

オーガニックコットンが原綿に加工されたら、
衣料品の縫製を行う団体「アシシ・ガーメンツ」が買い取りをしますが、
ピープル・ツリーでは、その代金をアシシ・ガーメンツへ一部前払いしています。
原綿から最終的な製品に仕上げるまでには、紡績や染色など多くの工程があり、
そのための費用や人件費が必要なためです。

なぜ前払いをするのか

フェアトレードの大事な要素のひとつとなるのが商品代金の「前払い」。
多くのつくり手たちは担保となる資産を持っていないため、融資の借り入れを断られてしまいます。
たとえ融資をしてくれる金融機関があったとしても、利息は15~20%と高額になるでしょう。
そのため、つくり手たちは仕事を始めるための技術や能力があっても、
一般的なビジネスのシステムではそれを活かすことができません。
フェアトレードが支援するのは、まさにそういった弱い立場にある人びとなのです。

ピープル・ツリーでは商品代金の一部前払いを行い、
納期に遅れることなく商品を生産できるように支援しています。
ただし、生産の体制や製品の原料費や組織の財務的な体力などもさまざまで、
前払いを行っていない団体もあります。
前払いをする場合は、生産者団体の担当者とも金額を話し合い、
彼らの財務状況もきちんと確認した上で決めています。

つまり、フェアトレードだから前払いをしているということではなく、
必要な融資を得ることが難しい、立場の弱いつくり手たちの自立を支援することが
必然的に前払いにつながっているのです。
生産者が必要なスキルを身につけ独立したり、事業の基盤を得て安定することで、
前払いのサイクルから「卒業」できるようにするのが目標。
私たちはそのための体制づくりを目指しています。

フェアトレードのつくり手たちに、前払いの大切さについて聞きました。

事業の資金とお金の透明性

商品代金の前払いはとても大変です。
会社全体の売上も年々増え、2014年度の売上額は8億7千万円ほど。
資金はどうやって調達しているのでしょうか。

一般的な会社と同様、金融機関からの融資と、「私募債」と呼ばれる
個人のサポーターからの資金を活かしています。
「私募債」は「公募債」(金融業者を通して広く募集される社債)と違い、
経営陣の友人・知人をはじめフェアトレードの理念に共感いたたいた方など、
ピープル・ツリーにとても身近な方から直接融資を受けるものです。
自分のお金がきちんと応援したいところに使われるように、との思いから
融資くださっています。
フェアトレードで大切にされている「透明性」は資金の面でも大切です。

事寄付金の送金

お客さまからいただいた寄付金を必要とされる団体へ送るのも大切な仕事のひとつ。
NGOグローバル・ヴィレッジの口座へのお振込や、ピープル・ツリーのお買い物と一緒に
いただいた寄付を取りまとめ、生産者団体が行っているプロジェクトや
現地の労働組合などの活動資金として送金しています。

現在募集しているネパールの被災地支援など、緊急を要するものを除いては、
基本的に1年に1回送金しています。
また、商品代金の一部を寄付するキャンペーンなども行うことがあります。

 

 

仕事のやりがいとモチベーション

「毎日の仕事を間違いなく行うということが大事で『当然』でもあるので、
大きな仕事を終えて感じる達成感のようなものは、正直ないです(笑)。
ただ、みんなが笑顔でいてくれることがやりがいですね。」(キョウコ)

「本当に意味のある仕事をしたいと思っています。今の世の中は、次々といろんな商品が登場し、
個人に消費させようとしていますが、ひとつひとつの商品の意味が薄いように感じます。
フェアトレードの商品には心があるし、生産者の生活がどのように変わっていくかも
実際に見ることができる。また、お客さまも心を持って買ってくれていると思います。 」(ジェームス)

5回に渡ってお送りしてきた「フェアトレードのおしごと」シリーズでしたが、
いかがでしたでしょうか。

これからも、いろんな角度からフェアトレードを掘り下げる企画をしていきたいと思いますので、
今回の連載の感想や、今後企画してほしいトピックなどがありましたら
お気軽にこちらまでご意見をお寄せください。

(ピープル・ツリー 通販担当 クギミヤ)