笑顔あふれる学校の灯がふたたび
~バングラデシュのスワローズ小学校、2023年1月再出発~

笑顔あふれる学校の灯がふたたび <br>~バングラデシュのスワローズ小学校、2023年1月再出発~


バングラデシュ北西部のタナパラ村で活動するフェアトレード団体「タナパラ・スワローズ」。

村の女性たちの働く場として衣料品をはじめとするフェアトレードの製品づくりを行うほか、小学校の運営や女性の地位向上のための研修、有機農業の普及などさまざまな地域開発プロジェクトを実施しています。

「ピープルツリー」は、20年以上に渡ってタナパラ・スワローズとともに手織り・手刺繍の服や日用品を開発し、輸入・販売することで活動を支えています。スタッフが現地を訪れて商品開発や品質向上をサポートしてきました。

また、フェアトレードの現場を知ってもらうために、ジャーナリストや取引先のバイヤーをお連れしたこともあります。製品づくりと地域開発の両輪で活動するタナパラ・スワローズはまさに、フェアトレードの理想モデルといえるからです。

手織り、手刺繍の製品づくり

スワローズ小学校の子どもたち(2021年)

健康管理のサポートや、ドメスティックバイオレンス防止など女性の地位向上の研修

 

タナパラ・スワローズの代表、ライハン・アリさんから、運営する小学校の存続が危ういとSOSを受け取ったのは2021年暮れのこと。

コロナ禍でフェアトレードの受注が減っただけでなく、人の往来が制限されたことで、海外からの視察団やインターン、ボランティアを受け入れていたゲストハウスの収益や訪問者からの寄付が途絶え、学校の運営費をまかないきれなくなったのです。

 

さらに今年に入って、大きな変化が訪れました。

バングラデシュ政府が公立学校の就学率を高めようと、生徒一人当たり毎月150タカ(約210円)の助成金を出すという施策を始めたのです。

これは喜ばしいことではありましたが、これによってスワローズ小学校に通っていたほとんどの生徒たちが公立小学校への転校を決めました。これを機に、5人いた教員のうち3人も退職や転居で学校を離れました。

 

ライハンさんは、政府が義務教育の徹底を図る施策をよいことと受け止め、いったんは2022年12月の今学期の終了と共にスワローズ小学校を閉校すると決めました。

しかし、政府の助成金支給は2023年末まで。もし財政が悪化すれば制度が打ち切られるかもしれず、同年に予定されている総選挙で政権が変われば、施策も変更される可能性があります。

 

ライハンさんは、将来また必要とされる時のために「村の学校」の灯を消すべきではないと思い直し、2023年の新年度からは、少人数で質の高い教育を受けられる場として新たな学校を再スタートすることにしたのです。

 

グローバル・ヴィレッジは、スワローズ小学校の再開を支援するため、今年いっぱいの準備期間と来年1年間の運営にかかる経費の一部を支援することにし、2022年5月、クラウドファンディングで支援金を募りました。

106名の方からのご協力で91万円余りの支援金が集まり、来年1年間の学校運営の目処が立ちました。

(左)4月に実施したオンラインイベントでタナパラ・スワローズの活動を紹介する代表のライハン・アリさん
(右)クラウドファンディングサイトの最終結果を報告したページ

 

ライハンさんは早速、再開する学校のプランを練り始めました。

 

既存の小学校に残っていた二人の年配の教員は来年以降の仕事の継続を望まず、わずかに残っていた生徒たちも全員、公立の小学校への転校が決まりました。

 

新しい学校は、教員も生徒もゼロからのスタート。最初の開校から40年あまりの経験を踏まえての、新たな挑戦となります。

ライハンさんは、来年はまず未就学の5歳児を対象としたプレスクールとしてスタートし、新たな小学校は1年の助走期間を経て2024年から開校することにしました。

そして、この新しい学校にふさわしい教員を求め、知り合いのつてで何人かの候補者と面談し、10月から3名の新たな教員の採用を決めました。

左からアティクル・ラーマンさん、ハリマ・ベグンさん、スライア・カトゥンさん

 

実はバングラデシュでは、公立小学校に入学した子どもの2割近くが中途退学してしまいます。その要因のひとつが、正規の訓練を修了した教員が全体の7割しかおらず、授業の質や生徒のケアにばらつきがあるせいだといわれています。

そのためライハンさんは、きちんとした資格と経験を持ち、やる気のある若い教員が不可欠と考えていました。

 

採用された3人はいずれもタナパラ村在住で教員資格を持っています。

個人で塾を経営しているアティクル・ラーマンさん(35歳)、家庭教師の経験を持つハリマ・ベグンさん(39歳)、NGOで成人教育に携わっていたスライア・カトゥンさん(29歳)。

3人ともタナパラ・スワローズの活動に共感し、ぜひ働きたいと意欲を示してくれました。

 

3人はまず、近隣の家庭を訪問して聞き取り調査をし、タナパラ小学校の構想を伝えました。

すると、子どもにしっかりとした教育を受けさせたいという声が多くあり、29の家庭が5歳の子どもをプレスクールに入学させたいと希望しました。

来年プレスクールへの入学を決めた5歳の子どもたち

 

さらに聞き取り調査では、経済的に困窮している家庭は以前より減っており、子どもの教育のためにいくらかの費用をかけてもよいと考える親が増えていることも分かりました。

 

1976年に開校したスワローズ小学校は、もともと貧しい家庭の子どもたちに安心して学べる場を提供することを目的としていました。バングラデシュでは公立小学校の授業料は無償ですが、当時は貧困のため制服や給食などの費用が出せない家庭もあったのです。制服と給食を無償で提供するスワローズ小学校はそういった貧困家庭の子どもたちの受け皿となってきましたが、現在は貧困家庭の救済だけでなく、より充実した教育を望む声も上がってきたようです。40年以上に渡って学びの場を守ってきたスワローズ小学校の、活動の成果といえるのではないでしょうか。

 

そこで新しい学校では、入学金として300タカ(約400円)を支払ってもらうことにしました。工場労働者の賃金が月5,000~10,000タカというバングラデシュでは決して小さくない負担ですが、29人の児童の親全員が、入学金の支払いに同意しました。

「学校の運営を持続可能にするために、親にも一定の負担をしてもらうことは重要だと思っています」とライハンさん。

 

2024年以降の運営については、まだ資金調達の目途が立っていないのが現状です。

コロナ禍で減ってしまったフェアトレードの受注額やゲストハウスの宿泊者数は次第に回復傾向にあるものの、まだ十分な収益を確保するまでには至っていません。ライハンさんは、欧米のNGOなどにも支援を呼び掛けて、持続可能な学校の運営を模索しています。

 

まだ課題の多いスタートとはなりますが、プレスクールの開校式が2023年1月1日に行われることになりました。

グローバル・ヴィレッジ代表の胤森(タネモリ)はこの開校に合わせて現地を訪れ、児童や保護者、教員にインタビューしたり、ライハンさんとも久しぶりに直接会って将来のプランを話し合ってくる予定です。

 

現地からのレポートを、どうぞお楽しみに。

 

 

 

【タナパラ・スワローズについて】

 

バングラデシュ北西部を流れるパドマ川(ガンジス川支流)のほど近くに位置する、美しくのどかな村「タナパラ」を拠点に活動しています。

 

1971年の独立戦争時に戦場となって村は破壊され、民兵として戦った多くの男性が虐殺されました。貧困と絶望の中にあった女性や子どもたちを救うため、スウェーデンのNGO「スワローズ」の支援を受けて、食糧配給や女性たちの自立を支える職業訓練が始まりました。

 

現在代表を務めるライハン・アリさんは、虐殺事件が起こった当時、子どもだったために難を逃れました。成人するにしたがってスワローズの活動を手伝うようになり、組織の成長と共に人生を歩んできました。

 

タナパラ・スワローズは、収益事業としてフェアトレードの製品づくりとその販売、小口融資、宿泊施設でのツアー受け入れなどを行うほか、地域開発プロジェクトとして、スワローズ小学校の運営のほかドメスティックバイオレンスをなくすためのコンサルティング、少額の出資を集めて医療サービスが受けられる健康プログラムなど、幅広い活動を行っています。