「これからのファッション業界はどう変わる?」
消費者から発信していく、「みんなが幸せになれる」経済システムへ

「これからのファッション業界はどう変わる?」 <br>消費者から発信していく、「みんなが幸せになれる」経済システムへ


4月24日はファッションレボリューション・デー。
2013年、バングラデシュの首都ダッカで起きた、1,100名以上が亡くなった縫製工場ラナ・プラザ崩壊の悲劇を二度と繰り返さないために、世界中でイベントが開催される日です。
今年は「Who made your clothes? あなたの服は、どこで、誰が、どんなふうにつくったもの?」をスローガンに、意識改革を訴えました。

ピープル・ツリー/グローバル・ヴィレッジでは、この日、繊研新聞の中村善春さん、ファッションジャーナリストの生駒芳子さん、ピープル・ツリーのアンバサダーでフリーアナウンサー、エシカル協会代表の末吉里花さんに登壇いただき、「これからのファッションはどう変わる?」をテーマにトークイベントを開催しました。

 

ファッション業界の現状

繊研新聞 中村善春さん

繊研新聞 中村善春さん

中村さん: 日本のファッション産業は、昨年で約9兆2000億円。一番ピークだった1992年より4~5兆円も規模が小さくなっているんです。何故かというと、「安い、早い、大量」を特徴としたファッションが急激に増えたから。いわゆるファストファッションの店舗数はここ10年で2倍になっていて、日本の45%の衣料品は安物衣料です。

生駒さん: 欧米のブランドでは、水面下で急速にエシカルに取り組んでいる印象があります。敢えてエシカルだと声高に言わなくても、労働条件や素材調達のトレーサビリティをサステナブルにしていくことが、一種「当たり前」になっています。

末吉さん: エシカル先進国であるドイツやイギリスでは、「どこで、どんなふうにつくられたものか分からない商品は買いたくない」という消費者が多く、「コンセプトショップ」と呼ばれるエシカルやフェアトレード、カルチャーなどをテーマにして商品展開をしたり、店づくりをする店舗が増えてきているそうです。

生駒さん: 今、日本の伝統工芸のプロジェクトを手がけているのですが、最高峰の技術を持った人たちの悲痛な声をよく聞きます。後継者がいない、販路がない、と。大きな経済効果や利益効率だけが望まれる社会で、失われてしまうものがあると感じています。

末吉さん: 職人を守って伝統的な技術を継承していくという活動ですが、それはまさにフェアトレードの精神のひとつですね。都市部で働くには出稼ぎになり、物価が高いので自分の生活も苦しい中で仕送りをすることになって、貧困の悪循環に陥ってしまう。でも、地元で小さく自給自足しながらでもそこで産業が成り立つ、というのがフェアトレードの発想ですね。

生駒さん: 私は伝統工芸プロジェクトを密かに「国内フェアトレード」と呼んでいます。スローなものづくりは今の社会ではすぐに機能しないように思われがちですが、私たちの魂にふれる美意識の大切なDNAが含まれている。そういったものは守らないといけないと思います。たとえば途上国を支援するときに大きな工場をバンと建てると、一瞬、雇用の創出ができたかのように思えますが、女性が一日中工場で働くと子供やお年寄りの面倒を見られなくて家庭が崩壊していく。それは現地の現状に合わない支援です。家庭生活が壊れないように、家の中でできる労働を支援する、といった配慮も重要なのではないかと思います。

変わるべき価値観

ファッションジャーナリスト 生駒芳子さん

ファッションジャーナリスト 生駒芳子さん

中村さん: 我々がこれまでの経済の指標にしていたことは、ものがない時代に、より多くのものを持つことが幸せだという考えがもとになっている。今、これだけものが余っている時代、「より良いもの」とは何なのか、考え直す必要があると思う。「家族と一緒の幸せを感じられる生産体制とは?」など、単純に安く大量につくるということとはレベルが違う産業の在り方が求められていると思います。

生駒さん: エシカルファッションという観点でいうと、日本は先進国の中では最下位じゃないかと感じます。

中村さん: 消費者は変わってきているのに、相変わらず業界の中の価値観や前年対比や効率に終始しているからでしょう。それでも、ようやく小売業は気づいていて、新しい切り口の売り場をつくるなら「メイドインジャパン」であったり、「エシカル」であったりを切り口にしなければならない、ということをバイヤーたちは感じている。

生駒さん: 古着を回収する取り組みをするアパレル企業の取り組みなど、エシカルの取り組みは少しずつ日本でも始まっています。
ただ、産業全体を見ると、いまだ動脈硬化状態が続いている気がします。日本では、エシカルやエコの視点、デザインの問題が、かなり経営者から遠いことが、大問題だと思います。戦後の日本は、重化学工業を重視した経済最優先でひた走ってきて、今年で70年。前年対比や数字が取りざたされますが、人間の世界が拡張して成長し続けることはあり得ません。日本の社会はもう「成熟期」に入っていて、成長ではなくいかに成熟していくかを受け入れ、考えなくてはいけない時代に来ています。

一人ひとりができること

ピープル・ツリーのアンバサダーでフリーアナウンサー、エシカル協会代表 末吉里花さん

フリーアナウンサー、エシカル協会代表
末吉里花さん

中村さん: これからの日本の人口は減少傾向で、30年間で3000万人減る。そうすると、今まで通りに数字を追求したり、効率で判断するのは、意味がないんです。

生駒さん: 量ではなく、質の部分でいかに満足したり、分け合って幸せに暮らしていくことを考えなくてはならない時代。企業の社会的責任CSRというものがありますが、一人ひとりがどんな社会貢献できるのか、個人の社会的責任というのを意識するべきかと思います。

末吉さん: 一人ひとりが自分のこととして捉える。私たちはみんな消費者であり、毎日何かしらにお金を払っていますよね。その権力というか、消費者としての力を思う存分使ってほしいと思います。

生駒さん: ショッピングは、投票だと思います。この企業からは買うけど、この企業のものは買わない。自分が納得できる企業のものだけを買い続ける、ということは今すぐできる個人の社会的貢献ですよね。これからは、ボイコットじゃなくて、「バイコット」、環境に配慮した企業や支持する社会政策を採る企業から商品を買うアクションが、何より社会をより良く変えていくのだと思っています。

末吉さん: まさに同じことを、バングラデシュの衣料産業労働者組合の会長アミンさんがおっしゃっています。「日本の消費者のみなさんには力があります。バングラデシュ内の体制が変わっても、その工場に発注をかける企業が変わらなければ、新しい発展にはならない。その企業を変えるのは消費者のみなさん、一人ひとりです。ぜひクリーンで意義のある消費をしてほしい」と。

生駒さん: 今、誰もが情報発信をできる時代です。ブログでも口コミでも、広めることで影響力はあると思います。

中村さん: 一人ひとりが自分のライフスタイルや価値観、自分が何故それを買ったのかということを「発信する側」になるのは、とても重要だと思います。共感でしかものが売れない時代。しかもリアルな実体験でないと、共感として広がらない時代がこれから来ています。

末吉さん: エシカルな共感の発信、ぜひ、ここから広めていきましょう!

 

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同時開催のワークショップ

ところで、トークショーが始まる前、ご来場のみなさんにはフェアトレードでオーガニックコットンの布にペタペタと手のひらスタンプをしていただいていました。何をするのかは明かさず、そのままトークを開始。みなさんが鼎談に集中している最中、実は現代美術家のしゅんさくさんの作業が背後で進められていました。

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なんと、1枚のドレスに仕上がっていたのでした!
私たちの日常生活と並行して、世界のどこかで服がつくられていることを追体験してもらうパフォーマンス。
颯爽と会場を歩くモデルさんに、場内から歓声が上がりました。

 

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トークイベント終了後、ご来場のみなさんはモデルさんや、生産者の写真や著名人のメッセージのパネルと一緒になど、会場内の写真を思い思いに撮り、情報発信をしていました。
(ハッシュタグは#FashRev  https://twitter.com/Fash_RevJAPAN

 

みんなでつくったドレスを身にまとうモデルの松下未奈さん(左)と、イベント観覧に参加したモデルの鎌田安里紗さん

みんなでつくったドレスを身にまとうモデルの松下未奈さん(左)と
イベントを観覧したモデルの鎌田安里紗さん(右)

 

服を着ない日はありませんが、それを「誰が、どこで、どんなふうに」つくっているかを意識することは、普段あまりないかもしれません。
しかし、消費者が安さだけを求めて買いものをし続けるということは、ラナ・プラザの悲劇を繰り返すことにもつながりかねません。
これからお買いものをするときには、ファッションレボリューション・デーのスローガン「Who made your clothes?」を思い出し、「消費者の力」を活用していただければ、と思います。

 

(ピープル・ツリー PR担当 ヒロミ)

 

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ピープル・ツリー/グローバル・ヴィレッジでは、衣料品産業の裏側を取材したドキュメンタリー映画『THE TRUE COST』の上映会を6月11日(木)に企画しています。
アメリカのアンドリュー・モーガン監督がラナ・プラザの事故をきっかけに、現在の経済システムの特徴でもある「大量生産・大量消費」の犠牲になった世界中の人々を取材したものです。
詳しくは、こちらをご覧ください。